パンク

日本で運転していたときも、バッテリーを上げたりこすったりと、
車で何か起こすのはいつも私だった。
フランスで何か起こしたくない…どうしたらいいかわからないし…
毎回どきどきしながらの運転だったが、遠出は絶対にしなかったので、
どうにかなるだろうと思っていた。
それに、フランスでは多少の傷やへこみは日常茶飯事なので、
安心感もあった。

しかし、やはり起こるべくして起こったといえよう。

ある日、ゆりちゃんを歯医者に連れて行くために、ポルトマイヨーという、
パリのすぐ近くまで運転した。
もう何度も通っていてすっかり慣れているところ。
歯医者の目の前の路駐スペースはいつも満員だったので、
一本裏の道に入って停めていた。
これもいつもどおり。
問題は駐車するときにいつもはしない「ガリガリ」という音がしたことだ。
ちょっと気にはなったが、車幅をなるべく寄せるために
路肩の石にこするように停めていたため、その音だろうと思った。
そしてそのまま歯医者へ。
今日が治療最後の日、やっと終わってほっとする。

さて車に戻り、エンジンをかけてみるとガリガリという音がする。
動き出してもガリガリいってるし、大体スピードが出ない。
しばらく走ったがおかしい、と思って再度停めて外に出て調べてみると…
なんと右前輪がパンクしている!!
ここで頭の中は真っ白。
パンクなんて日本でもしたことない。
こういう場合どうしたらいいのだ?
パニックになりそうな頭を懸命に振り絞って考え、
「そうだ、ガソリンスタンドにタイヤが売ってるじゃないか!」と思いつく。
とにかく最寄のガソリンスタンドへ行こう、と走り出すが、
もうタイヤがぺしゃんこなのか、ホイールそのものが道路についている感じがして、
このままじゃホイールもだめになりそうだ。
うーん、やばいなー、どうしようかなー、と思っていると
右手にランドローバーのディーラーがあった。
とにかく助けを求めようと中に入る。

高級感漂う店内に戸惑う私。
しかも人がいないんですけど。
えーと、えーと、誰か出てきてくれよ~、と思っていたら人が出てきた。
「車が壊れちゃったんです」と言うと「すぐうちの修理工場に相談しなさい」との返事。
「あのー、ランドローバーの車じゃないんですが…」「そんなのかまわない」
なんて頼りがいのあるお言葉!!
教えられた工場への入り口に向かいながら、運はこちらに向いてきたかも、と思う。

しかし、工場の受付で同じことを言うと、「FIATのタイヤはないわ」とそっけない一言。
がーん。
ここでも頼れるおじさんが現れ、近くのタイヤ屋さんを教えてくれた。
受付の女性は「電話を貸してあげるわ」と電話を出してくれたが、
私がかけるのか…かけてくれないのか…。
迷っているヒマはないので電話をかける。
タイヤ屋さんのおじさんに同じ話を繰り返すと、
「今からそちらに行くがどこにいるのか?」との問い。
ここはどこだ?
えーと、えーと、と言いよどんでいるのを見かねて受付の女性、
私から電話を取り上げて、相手に場所を伝えてくれた。
だったら最初から電話してくれればいいのに…。
15分くらいで到着するので、車の中で待っているように言われた。

ついていなかったのは、この日はバカンス中でお子様四人連れだったことだ。
このまま路頭に迷ったらどうしようかとマジで考えていた。
とりあえずめどがついたのでちょっとほっとする。
15分がすごーく長く感じられる。
何が来るんだろう?レッカー車?

やってきたのはごく普通の車だった。
一体どうするんだろう?と思っていたら、うちの車の後ろについていた
スペアタイヤをはずして、パンクしたタイヤと取り替えてくれた。
スペアタイヤがついていたのか!!
もっともついていたのを知っていても取り替えられなかったが。
そして、自分の車の後をついてくるようにと言われる。
この間、たまたまどこぞのアパートの駐車場出口前に車を停めていた私、
中から車が出てきちゃって嫌な顔されたりしたのだが、
出てくる車が高級車ばかり。
ここは高級住宅地なのね、という感慨新たにしたのだった。

さてやってきたのはMaillot Pneusというタイヤ屋さん。
フランスではこういうところでタイヤ交換するのか。
町の工場って感じのたたずまい。
緊急なのですぐに見てもらえる。
子供たちは車に乗ったままリフトで持ち上げられて喜んでいる。
パンクしたのは右前輪だけだったが、まったく同じタイヤが在庫になく、
同じ銘柄のひとつ新しいシリーズになってしまうということで、
左もそろえて換えたほうがよいと言われ、承諾する。
予想外の出費だが、自分が悪いので文句言えない…。
「どうしてパンクしちゃったんですか?」と聞いてみたら、
「何かとがったものにぶつけたんじゃないか」とのことだった。
ぶつけたかなあ、駐車するときの路肩ごりごりがまずかったのか。